外国の暮らし その6
老人性のシミ、食べても食べてもなくならないかにみえたクレーム・ブリュレ、中絶体験談、階段箪笥、ディスコの夜、電話の声、足早に前を行くのっぽの後ろ姿、インタビュー中に通訳に詰まった時の苛ついた顔、シャンペンの入った小さな冷蔵庫・・・。
今、6年ぶりに再会したRローランスの姿と、その彼女にまつわるさまざまの記憶の断片とが、一気に混ざり合って一つのまとまった個体に凝縮した。
あんなにオソロシかったRの面影はもはやそこにはなく、かといって、急に親密さをみせたあのブラッスリーの宵のローランスももう姿を消していました。
その夜私がセーヌ川に面したアパートの一室でほんの数分間だけ立ち話をしたローランスは、礼儀正しく距離を保ったただの他人だった。
おそらく今回限り、という暗黙の了解をお互いに感じつつ、けれど表面上はにこやかに。
これまでの記憶の切れ端はそっと箱にしまって、もうたぶん蓋を開けることもないそういう白昼夢のような人間関係に、パリという街に住んでいるとしばしば出くわすものなのです。